ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

11 聞くだに胸むな糞くその悪くなる状況だが、告白している枝野が多分に罪悪感を持っているためにやりきれない。現在の格差を見せつけられた鬼河内珠美にも嘲られるだけの理由があるから、一概に弱者とは言い切れない。「それと、これは本当に仕方がないというか、自然にそういう流れになったんですけど、そうやって珠美をいたぶっていると、どうしても中学卒業後、一度だけ珠美の消息を耳にしたことを言わずにいられなかったんです」「どんな消息ですか」「彼女の両親が揃って世間を騒がせたんですよ。刑事さんは憶おぼえていませんか。ずいぶん前、宇う都つ宮のみや市で起きたリサイクルショップ店員の惨殺事件」 先刻、頭の隅で何かが弾けた理由に合点がいった。平成十五年、宇都宮市内のリサイクルショップに勤める青年二人がオーナー夫妻に惨殺される事件が発生した。青年たちの身体には無数の傷痕があり、生前のリンチを否が応でも想像させた。鬼河内夫妻は青年二人の働きぶりが悪いと日頃から散々暴行を加えた上、ショップの損害を償えと彼らの預金から全額を引き出させた。そしていよいよ青年が警察に訴え出ようとしたその時、彼らを拘束して嬲なぶり殺しにしたのだ。 巷こう間か ん騒がれるパワーハラスメントなど児じ戯ぎに思えるほどの凄せい惨さんさで、事件は世間の耳目を集める。犯人夫婦の苗字が象徴的で覚えやすい点も、人々の興味を?き立てるのに拍車をかけた。鬼河内夫婦は逮捕、一審で死刑判決が下り二審で確定。既に二人とも刑が執行されたはずだ。 しかし奈津美の名前を騙っていた女が、まさか悪名を轟とどろかせた鬼河内夫婦の娘だったとは驚くしかない。