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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

12 二 残された者と消えた者「あの夫婦の行状を逐一話しながら遊んでやりました。最後の辺りになると、彼女、笑いながら泣いているんです。さすがに少し悪かったと反省したんですけどね」 枝野は頭を?きながら言うが、懺ざん悔げ の言葉としても空虚であることこの上ない。散々相手を殴る蹴るしてから、死体に謝るようなものだ。「あなたと別れる際、鬼河内珠美はどんな様子でしたか」「営業スマイルのままでしたね。次も指名するからと言っても返事はありませんでした。……あの、そろそろいいですか。遅くなると女房が怪しみますので」 枝野を解放してから運転席に移った蓮田は聞こえよがしの溜息を吐いた。「どうした」「善悪の区別のつかなさに改めて気づかされましたよ。鬼河内珠美はクソッタレなのに受難者で、枝野はスクールカーストの被害者なのにやっぱりクソッタレで」 幼稚な物言いだが言わんとすることはよく理解できる。「珠美が別の名前と住民票を取得した理由もこれで納得がいきます。鬼河内の姓のままではろくに就職もできなかったんでしょうね」「到底忘れないような珍しい苗字だし、鬼河内夫婦の事件は全国に轟いたからな。本人に罪がなくても、あの夫婦の娘という事実だけで肩身の狭い思いをしただろうな」 だが枝野の話を信じる限り、少女時代の珠美もあまり褒められたものではない。嫌な言い方になるが、鬼畜の夫婦に育てられたろくでなしの娘が三人分の罰を受けたような感がある。「鬼河内という姓で事件を思い出したら、大抵の雇い主は採用を躊躇しますよ。仮に珠美本人に