ブックタイトル中山七里「境界線」
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『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。
13問題がなくても、彼女がいるだけで職場の雰囲気がおかしくなるでしょうから」「自殺の理由も大方見当がつく。折角素性を隠して生活していたのに、一番知られたくない人間にバレてしまった。珠美の絶望は小さくなかっただろうな」 中学を卒業してから珠美がどんな人生を送ったのかは想像するより他にないが、あの鬼河内夫婦の許で育てられて幸せになる図はあまり思い浮かばない。北関東と東北を流れ歩いたのも、その出自と全く無関係ではないだろう。 最終的には風俗嬢に身を沈め、かつて自分が見下していたカースト最底辺の人間に買われる羽目になる。同級生の嘲笑に見送られながら、彼女は途中のドラッグストアで件の鎮痛剤を買い求める。そしてひと晩かけて、己が五歳まで住んでいた故郷に帰る。 およそ三十年前の故郷。町並みは多少変わっても、海岸の位置と漂う潮の香りは昔のままだ。五歳までしかいなかったのなら悪い思い出もそうそうない。いや、ひょっとしたら鬼河内珠美にとって気仙沼で過ごした五年間こそが生涯最良の歳月だったのかもしれない。 無論、死者の思いを正確に知ることは不可能だ。だが珠美の置かれていた状況と直前に枝野から受けた仕打ちを考えれば、笘篠の推理も中あたらずと雖いえども遠からずだろう。「ひとまずよかったですね」 イグニッションを回しながら蓮田が訊いてきた。「奥さんの名前を騙っていた女の素性が判明し、自殺についてもそれらしい動機を?めたんです。管轄の気仙沼署に報告して一件落着ですよ」いや、まだだ。