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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

14 二 残された者と消えた者 声には出さず、笘篠は自分に言い聞かせる。確かに不明だった多くの事柄が明らかになったが、肝心な点がまだ解明されていない。 いったい珠美はどんな経路で奈津美の名前と住民票を入手したのか。それを解き明かさない限り、笘篠の事件は終結しないのだ。 翌日、事の次第を伝えてやると、一ノ瀬は電話の向こうで大層驚いた。『よりによって鬼河内夫婦の娘でしたか。道理で素性を隠そうとしたはずだ』「珠美本人は犯罪者でなくても、世間にしてみればそうじゃない。それに世間より鬼河内の姓を嫌う者がいたかもしれない」『それって誰ですか』「珠美本人さ」 笘篠は己の考えに一ノ瀬がどう反応するかを確かめたかった。「自分は両親とは別の人間だ。鬼でもなければ悪魔でもない。そう思いたくて鬼河内の姓を捨てたかったのかもしれない」『説得力のある解釈ですね。それならウチの課長も納得します。後は身元不明の死体が鬼河内珠美であるのを証明するだけですが、それは気仙沼署に任せてください』 言い換えれば、笘篠には手を引いてもらいたいという意味だ。「珠美がどうやって女房の名前と住民票を手に入れたか、その疑問がまだ残っている」『それもウチに任せてください。これ以上笘篠さんが関与してくると、ややこしくなります』