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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

15「具体的にどこをどう調べるのか教えてくれないか」『珠美が宇都宮市から転居した記録を追っていけば、名前を捨てた場所も特定できるでしょう』「そうとは限らない。しばらくは二つの名前を併行して使用していたかもしれない。いいか、大した教育も受けず犯罪者の両親を持った娘の立場で考えてみろ。彼女の知恵と才覚だけで他人になりすませたとは思えない。誰か助言なり手助けをした者がいたと解釈するのが妥当だ。住民票住所地の履歴だけでなく、各地で接触した人間を洗う必要がある」『ウチの刑事課に何人の刑事がいるか、知っているでしょう』 今にも悲鳴を上げそうな口調で、一ノ瀬の置かれた立場が知れる。笘篠にも罪悪感はあるが、ここでボールを返す訳にはいかなかった。「それなら定期的に進捗状況を知らせてくれ。でなければ俺は俺で動く」 一拍の沈黙があり、笘篠は相手の溜息を聞いたような気がした。『くれぐれも自重してください。あなたならご存じでしょうけど、警察というところは上からよりも横からの手を嫌いますから』 電話は申し訳なさそうに切れた。2 予測できたことだが、一ノ瀬からの進捗報告はすぐに途絶えた。あの男のことだから笘篠への情報提供を渋っている訳ではなく、単に忙殺されているだけに違いない。震災から既に七年が経