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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

16 二 残された者と消えた者過し、街の一部は以前の姿を取り戻している。以前に戻ったということは犯罪件数もまた平時に戻ったことを意味する。 そして警察官が多忙なのは、いち早く復興した仙台市内においてより顕著だった。 六月二十日午前六時五分、市内太たい白は く区富とみ沢ざわ公園内で男性が死んでいるのを野球の早朝練習に来た少年たちが発見した。仙台南警察署に通報が為され、直ちに同署と県警本部の警察官が現場に向かうこととなった。「唐沢さんは先に臨場したそうです」 ハンドルを握る蓮田は通報に無理やり起こされたのか、目を擦っている。「いったい、あの人は何時に寝て何時に起きているんでしょうね」「どんなに熟睡していても電話のコール一回で跳ね起きるそうだ。見習え」 現場である公園に近づくと入口に数台の警察車両が停まっている。見覚えのあるワンボックスカーもあるので、鑑識作業も始まっているのだろう。規制線を示すテープの前では、早くも野次馬たちが遠巻きに公園内を覗いている。 富沢公園は仙台市体育館に隣接しており、野球グラウンドが整備されていることも手伝って利用する者が多い。広い場所ゆえに鑑識作業が長引くことが予想され、少なくとも今日一日は立ち入り禁止になるだろう。 テープの下を潜って公園内に足を踏み入れる。幅のある遊歩道を進んでいくと四あずまや阿の横にブルーシートのテントが設営されており、そこが現場と分かる。 テントの前では南署の捜査員が鑑識係と話をしている最中だった。