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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

18 二 残された者と消えた者 胸の傷よりも目を引く外傷は別の一カ所だ。「ひどいな」 笘篠の背後で、蓮田が思わずといった調子で洩らした。 男の鼻から下は完全に破壊されていた。 口を裂くとか歯を折るとかの軽微なものではない。上顎と下顎が原形を留めないまでに歪わい曲きょくし人相すらも判別困難になっている。「そっちの凶器は死体の傍に転がっていました。花壇から?がしたブロックで口こう蓋がい部を叩き潰したのですよ」「では見つからないのは胸を刺した凶器ですね。しかし検視官、大きな外傷は四カ所という話ですが、あとの一つはどこですか」「部下たちが捜しているのは片刃の凶器だけじゃありません」 唐沢はそう告げると、男の腹部まで捲っていたシーツを更に?がしてみせる。 笘篠の目は男の両手に釘付けとなる。 両手とも全ての指が第一関節から切除されていた。ひどく整った切断面であり全て水平になっている。「捜しているのは失われた十本の指です。おそらく胸を刺したのと同じ凶器で指を落としている」 唐沢の指が死体の横にある血痕を示す。「被害者を横たわらせてから、コンクリを俎まな板いた代わりにした痕跡がありました。上下の顎も指の断面も生活反応がないことから、死亡後の作業だったと推測できます」