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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

2 二 残された者と消えた者だろう。 使用者の氏名と住所を告げると、一ノ瀬はそそくさと電話を切った。用件のみで余計なことを付け加えない。これもまた一ノ瀬ならではの気遣いだった。 刑事部屋での通話で、隣に座る蓮田には内容が筒抜けだったかもしれない。今更知られたところで笘篠は一向に構わないが、私情で捜査をする相棒を持った蓮田にすればいい迷惑だ。 ちらりと横目で見ると、蓮田は恨めしそうな顔をしていた。「笘篠さん、地声が大きいんですよ。低いけどよく通る声なんです」「お前と組んでしばらくになるが、それは初めて聞いたな」「自覚、ないんですか」「自分では分からん」「私情に駆られて突っ走るのが褒められたことじゃないのは分かっているんですね。だからわたしの機嫌を伺うような真似をしている」「聞かなかったことにしろ。それならお前のご機嫌伺いをする必要もなくなる」「突っ走るのが分かっていて、聞かなかったことにするなんて無理ですよ」 蓮田は椅子を回して笘篠を正面から見据える。「例の、奥さんの名前を騙っていた女の件ですよね」「彼女と最後に会ったヤツの素性が判明した」「会って何を訊くんですか。彼女は自殺で処理されているんですよね。まさか自殺の動機まで解明するつもりですか」