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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

20 二 残された者と消えた者入社2016年6月30日 有効期限 2019年6月30日「現在、免許証裏面の住所地は会社の寮らしいですね。しかし勤務先は九時から開始なのでまだ連絡を取っていません」 九時ならあと一時間ほどだ。「公園内に防犯カメラは設置されていますか」「設置されていますが入口付近とグラウンド側だけです。遊具と四阿は公園のほぼ中央ということもあって、撮影範囲から外れています」 ここからは密生する樹々に阻まれてグラウンドが望めない。入口も同様だ。それぞれ距離もあるので犯人と被害者が映っているのは期待しない方がいい。「顎と指先の破壊、どう思いますか」 尋ねられた来宮はやや困惑気味の様子だった。「笘篠さんも同じ見立てでしょうけど、被害者の身元を隠すためでしょう。免許証や社員証をそのままにしておいたのは、うっかり忘れたと解釈しています」 概ね妥当な解釈と思える。しかし笘篠はどうしても違和感が拭いきれない。上下の顎を粉砕するにしても十指を切断するにしても頭に血が上った状態では不可能で、根気と冷静さを必要とする。何より指の切断面の整い方がそれを物語っている。そして冷静に作業をしたとすれば、免許証と社員証を抜き忘れたという解釈は矛盾する。