ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

23「中途採用でした。ウチは生鮮食料品の冷凍と運送を主業務にしているんです。いきおい力仕事が多いんで五十近い男に務まるかどうか心配してましたが、彼は音も上げずに頑張っていました」「職場の人間関係はどうでした。誰かとトラブルになったりはしませんでしたか」「天野に限って、それはなかったです」 室伏は自信ありげに答える。「何しろ目立とうとしない男で、むしろトラブルを避けよう避けようとしているようでしたね。意地の悪い同僚にからかわれても、へらへら笑ってやり過ごしていました」「本人に家族はいましたか」「独身寮に住んでいましたが、家族については詳しく訊いていませんね。採用する際、家族は震災で亡くしたと申告していたようですから、深く訊くのが憚はばかられたんです」「特別仲の良い同僚の方はいらっしゃいましたか」「反目している相手もいなければ、つるむ相手もいないようでした。トラブルを避けるのと同じように、付き合いが深くなるのも避けているみたいでしたね。しかし、勤務態度は真面目そのものでした。無駄口は一切叩かず、やれと言われたことをやり、やるなと禁止したことは絶対にしない。作業主任として彼ほど使いやすく頼りになる従業員はいませんでした。本当に、いったい誰が彼を」 とうとう室伏は押し黙ってしまった。 後刻、本人の部屋を家宅捜索する旨を伝えると、室伏は表情を硬くしてテントから出ていった。すると入れ違いにして南署の捜査員が駆け込んできた。