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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

24 二 残された者と消えた者「免許証記載の住所地には被害者の実家があるようです」 訊けば、大槌町赤浜の当該番地で天野姓の104登録がされており、電話を掛けてみると天野の妻を名乗る女性が応対したという。「すぐ、こちらにやってくるとのことです」 天野の家族は震災で亡くなったのではなかったか。不意に芽生えた疑念を抱えて待機していると、数時間して、化粧もせずに家を出てきたような中年女が警官に連れられてきた。「天野志し保ほと申します。明彦の家内です」 いきなりテントの中に安置されている無残な骸むくろと対面させる訳にもいかず、笘篠はまずテントの前で彼女の話を聴取することにした。「ご主人は会社の寮住まいで、申告では家族は震災で亡くなられたということだったんです。ですから奥さんと連絡が取れて、正直驚いています」「亡くなったのは主人の方ですよ」 志保の言葉に笘篠と蓮田のみならず、来宮までが反応した。「主人は大震災の際、町庁舎の近くに出掛けて津波に?まれたんです。遺体は未だに見つかっていません。主人が死体で発見されたと聞いて驚いたのはこっちです」 三人の刑事は顔を見合わせる。まるでコメディドラマのひとコマのようだが、大抵の悲劇は喜劇と背中合わせだ。 笘篠は背筋に悪寒を感じる。 まただ。正体不明の気味悪さが足元から立ち上ってくる。