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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

27「刑事さん、地元の人ですよね」「ええ」「震災で誰か、まだ見つかっていない近しい人はいますか」「……はい」「じゃあ、あなたはあっさり失踪宣告の申し立てをしたんですか」 志保の責めるような視線が笘篠を貫く。笘篠の唇は凍りついたように動かない。「思いを断ち切るために失踪宣告する人もいれば、諦めきれずに請求していない人もいます。あなただって色んな被災者を見てきたでしょ」 何の反論もしようとしない笘篠に業を煮やしたのか、来宮がなおも食い下がる。「しかしですね、この免許証は決して偽造ではありません。岩手県公安委員会が発行した、れっきとした本物で」「いいえ、偽物です。住所や交付日は合っているかもしれませんけど、肝心の顔が別人なんですよ」「来宮さん、もういい」 堪たまらず笘篠は質問を中断させた。いくら公的発行を力説したところで家族の証言の方が信憑性がある。第一、笘篠自身がそれを体験しているのだ。「仮に別人であるなら、その確定もしなければなりません。後日、ご自宅に鑑識の者が伺うかもしれませんが、その節は捜査にご協力ください」「わたしは無関係じゃありませんか」