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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

28 二 残された者と消えた者「仰る通りですが、ここに横たわっている男性は天野明彦氏として二年近くも仙台市内に暮らしていました。家族として何故そんなことになったのか、調べる必要があるとお思いになりませんか」 すると志保はしばらく逡しゅん巡じゅんした挙句、渋々ながら承諾した。 公園を去っていく志保の背中を見送りながら、笘篠はようやく悪寒の正体に気づいていた。 奈津美の名前を騙っていた鬼河内珠美、そして天野明彦の名前を騙っていた被害男性。二人に共通するのは自身の顔写真がある運転免許証を所持していたことと、長らく別の人間として平穏な生活を送っていた事実だ。 一人は自殺、一人は他殺という違いはあるものの、二人の行為は酷似している。そして同時期に酷似の出来事があった場合、二つは関連していると考えるのが妥当だ。「笘篠さん」 呼び掛けに振り向いてみると、蓮田が疑念に濁った目をこちらに向けていた。「これ、奥さんと同じパターンですよね」「ああ、そうだ」「偶然の一致にしては類似点が多過ぎる」「行方不明になって七年が経過しているのに失踪宣告の申し立てがされていないこと。偽造ではない運転免許証を所持していること。今まで何事もなく生活を送っていたこと。調べればもっと出てくるかもしれん」「これはもう笘篠さん個人の事件ではなくなりました。県警本部のれっきとした案件ですよ」