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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

3「そんなもの、当の本人でなきゃ分からん。俺が知りたいのは彼女がどんな経緯で女房の名前と住民票を手に入れたかだ」「どちらにしても気仙沼署に任せるつもりはないんですね」「個人的なことだからな」「やっぱり同行しますよ」「個人的なことだと言ったはずだぞ」「アクセルしかないクルマを走らせる訳にいきますか」 それだけ言うと、蓮田は椅子を戻して報告書の続きをパソコンに打ち込み始めた。お節介だと思ったものの、アクセル云々の喩たとえ話は妙に納得できる。普段の笘篠なら自制も自重も利くが、今回ばかりは感情が先行している感が否めない。「付き合うのは勝手だが、現状抱えている案件を優先しろよ」「それこそ、わたしの勝手ですよ」 蓮田はいつになく苛立っているようだった。 一ノ瀬の許に返ってきた照会書によれば、山田某の本名は枝えだ野の基もと衡ひら。届け出の住所は仙台市泉いずみ区南なん光こ う台だい、現在もなお同じ携帯番号を使用しているとのことだった。既に住所は押さえているので先に電話で面会約束を取り付ける手もあるが、枝野に要らぬ警戒心を抱かれてもつまらない。やはり定石に従って、本人の在宅が見込める時間に訪問する方がいいだろう。その場合は蓮田も夜討ち朝駆けに付き合わせることとなるが、都合がつかなければ単独で行動するまでだ。