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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

4 二 残された者と消えた者 そんなことを考えていると、蓮田が画面に目を向けたまま口を開いた。「夜討ち朝駆けくらいでわたしが断念すると思ったら大間違いですよ」 こちらの思惑を見透かされているのはあまりいい気持ちがしないが、こうなれば好きにさせてもらうだけだ。「じゃあ、今夜にでも急襲する」 午後十時、笘篠は蓮田とともに枝野の自宅前に到着した。泉区南光台は青あお葉ば 区および宮み や城ぎ野の区との境にある団地で、南光台団地・南光台東団地・南光台南団地で構成されている。 南光台は谷を埋め盛土して造成した宅地だ。一九六一年から開発・分譲しているが、宅地造成等規制法の制定が一九六二年なので同法に準拠して造成されたかどうかは不明だ。東日本大震災はこの盛土造成宅地にも甚大な被害を与え、各所で地面の亀裂・不同沈下・液状化・擁よう壁へき損壊・ブロック塀損壊を招いた。谷開口部の建築物などは法のり面めんの崩壊で半壊家屋が集中した。今もなおその爪痕は残り、崩落したブロック塀が放置されたままの家屋が散見される。 枝野宅はこの一角にあった。 当該番地の建物には〈枝野〉の表札が掲げられている。インターフォンを鳴らすと男の声が返ってきた。『どなたですか』「宮城県警です。枝野基衡さんはご在宅ですか」『……ちょ、ちょっと待ってください』