ブックタイトル中山七里「境界線」
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『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。
6 二 残された者と消えた者「会いましたけど……その、別に違法なことはしていないつもりなんですが」「勘違いしないでください。彼女と遊んだことをとやかく言ってるんじゃありません。このナミという風俗嬢が当日死亡しているのを知っていますか」 枝野は一瞬、呆けたような顔になる。「……え」 到底、演技とは思えなかった。知らなかったとしても無理はない。報道では笘篠奈津美の名前のみで顔写真は掲載されなかったのだ。「いったい、どういうことですか。まさか誰かに殺されたんですか」「今のところは自殺とみられています。あなたとホテルで別れた直後にドラッグストアで鎮痛剤を購入し、翌早朝には気仙沼の海岸で遺体となって発見されました」「自殺って、そんな」 枝野は悄しょう然ぜんと肩を落とし、ゆっくりと頭を垂れる。「枝野さんに伺いたいのは、彼女と過ごしていた二時間に何があったかです。あなたと別れた直後に彼女は薬を買っている。衝動的な行動に出た原因はそこにあったのではないかと考えています」 既に枝野から黙秘や隠蔽の意志は失せているようなので、笘篠は深追いしようとしなかった。放っておけば自分から話してくれる。「今、女房が妊娠していましてね」 枝野の打ち明け話は唐突に始まった。