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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

7「もうずいぶん夜の生活が途絶えてるんです。わたしは半導体メーカーの開発部に勤めていまして」 枝野が口にしたのは誰もが知っている大手企業の社名だった。「あの日は気仙沼市へ出張でした。それで、ホテルに着くとふっと魔が差して、ネットでデリヘルを検索したんです」「それで〈貴婦人くらぶ〉のナミを見つけたんですね」「掲載されている写真を見たら自分の好みだったんですよ。もちろん目は隠していたのでそれ以外しか見ることができないんですけどね。それで彼女が時間通りに現れたんですけど、ドアを開けてとてもびっくりしました」「何故ですか」「知った顔だったからです」 笘篠は思わず腰を浮かしかけた。狭い車中なので危うく天井に頭をぶつけそうになる。「知人だったんですか」「二十年近くほとんど音信不通だったんですが顔を見た途端に思い出しました。偶然っていうのはあるものなんですね。何と小中学校の同級生だったんですよ。こっちはびっくりしましたけど、相手もかなり驚いていたようでしたね」「彼女の本名は」「鬼おに河こ う内ち珠たま美み といいます」 名前を聞いた瞬間、頭の隅で何かが弾けたが、枝野の話に集中することにした。