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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

8 二 残された者と消えた者「わたしは生まれも育ちも仙台市内なんですけど、彼女は小学校入学の時、どこかから転居してきたのかな。それで小中学校は一緒だったんですが、中学校卒業の際、親の都合とかで栃木の方に引っ越してそれっきりになりました」「間が二十年も空いていますね。同窓会とかは開かなかったのですか」「何度か開きましたが。彼女は一度も顔を見せませんでした。幹事に聞いたことがあるんですが、手紙を出しても転居先不明で返送されてきたようで」 笘篠自身、同窓会の幹事を押し付けられたことがあるので納得する。一度音信不通になってしまうと、相手から連絡がない限り消息は途絶えてしまう。たかが数年同じ教室で学んだというだけの間柄であり、反りの合わない者もいる。日々新たな付き合いが増えていけば、旧ふるい顔は記憶の底に埋没していく。「では昔話に花が咲いたでしょう」「いや、それが、ちょっと」 急に枝野の言葉が湿りがちになる。「どうかしましたか」「最初はお互いに再会を喜んでいたんです。色々と懐かしい話もしました。委員長やってたヤツはどうしてるかとか……3・11で誰それがいなくなったとか」 これは東北人ならではの話の流れだろうと思う。知己の消息を話題にする時、まず被災したか否かが前提になる。実際、あの震災で知人を失った者は相当数いる。旧交を温める相手が既に消えてしまっているのだ。