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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

9「お互い生きていてよかったから始まったんですけど、今は何しているんだって話になると急に気まずくなって……」 訊かずとも、笘篠には何となく察しがつく。片や著名な半導体メーカーの開発部、片や風俗嬢では環境や収入に差があり過ぎる。話しているうちに?み合わなくなるのも当然だ。 えっと、と枝野は奥歯にものの挟まったような言い方に変わる。「二十年も経つと生活レベルというか住む世界がずいぶん変わってしまって。あの、それでもこちらは客だし向こうはデリヘル嬢だし、取りあえず指定したコースに移ることになって」 笘篠はその場を想像して鬼河内珠美に同情する。風俗嬢として会ってみれば同級生で、しかも大企業に勤めて家庭と一軒家を手に入れている。そんな相手に性的なサービスを提供する女性の心理はどんなものか想像すると居たたまれなくなる。「枝野さんも複雑だったでしょうね」「複雑というか何というか、あの二時間は結構愉しんでしまいました。正直、彼女が自殺したと聞いた瞬間からすごい自己嫌悪に陥っています」「同級生と遊んでしまったからですか」「いえ……実は遊んでいる最中に少し、いやずいぶんひどいことを彼女に言ってしまったんです」 ああそうか、と笘篠は合点する。娘ほども歳の離れた嬢と遊んだ後で説教をするオヤジのようなもので、枝野もお愉しみの最中に忠告なり何なりしたのだろうと思ったのだ。 だが、それは早合点だった。「わたしも言い過ぎたんですけど、そもそも珠美が悪いんですよ。昔、あんなことがなければ普