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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

13 富沢公園で発見された男が奪われたものは歯と十本の指だけではない。 肌身離さず携帯していたと思しきスマートフォンがどこを捜してみても見当たらないのだ。彼がスマートフォンを所持し利用していたのは、室伏がその現場を目撃したと供述しているので確かだ。休憩時間になると決まってスマートフォンをいじっていたので、ふと画面を覗き込むと競馬のサイトだったのだという。 運転免許証と社員証を残しておきながら、歯型と指紋と個人情報の塊である携帯端末を奪っていく。傍目には矛盾した態様だが、男の正体が天野明彦ではないことを承知している人物が犯人ならば納得がいく。 鬼河内珠美がカードケースの中に収めていたのは偽造された運転免許証だが、天野明彦を名乗る男が所持していたそれはれっきとした本物だった。ICチップ内にはちゃんと本籍の記録も残っている。 当然、謎の男がどうやって免許証を取得したのかが問題になってくるが、これについても室伏が証言してくれた。「ああ、天野の免許はわたしが取らせたんですよ」 公園を後にした笘篠と蓮田が〈氷室冷蔵〉の作業所を訪れると、室伏は何を今更といった様子で答える。