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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

10 一 生者と死者「中山記念の結果、分かるか」「ちょっと待ってください。競馬にはあまり縁がなくて」 弁解しながら蓮田が自分のスマートフォンを操作する。「ありました、中山記念の結果。順当に本命馬が優勝しています。見事に外しましたね」 他のページを見てみる。地方競馬、盛岡競馬場のレースにも印がついており、各々の戦績を確認してみたがいずれも掠かすりもしていない。「この新聞を見る限り、どのレースも大穴狙いですね」 蓮田の言う通り、新聞に書き加えられた赤ペンはことごとく「◎(本命)」、「〇(対抗)」、「▲(三番手)」、「△(二、三着の可能性)」を外し、もっぱら「☆(上記以外の穴馬)」に集中している。「何の考えもなく、リターンの大きさだけで穴狙い。この新聞だけで即断するのは早計かもしれませんけど下手の横好きを地でいっているようなものですね」「この予想通りに金を注ぎ込んだとすると、公園に赴いた当日の所持金一万七千五百円というのは男の全財産だったかもしれないな」「関係ありますかね。はした金とはいえ、現金は盗まれていなかったんですよ」「関係ないとは言えん。カネは多くても少なくてもトラブルを呼び込む」 その日のうちに、南署に帳場が立った。県警と南署の合同捜査会議となり、南署からは井い筒づつ署長、県警からは東しののめ雲管理官と山やま根ね 刑事部長が雛ひな壇だんに並ぶ。端には石動も顔を揃えている。