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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

12 一 生者と死者「被害男性の所持品は」「札入れの中には一万七千五百円の現金と運転免許証、〈氷室冷蔵〉の社員証がありました」 来宮の口から運転免許証が岩手県公安委員会から発行されたものであることが説明されると、捜査員たちの間からは不審げな呟きが洩れた。「免許証の発行自体に問題はなし。証明書としての住民票が不正使用だったという訳か」 来宮がちらりとこちらに視線を寄越す。住民票の偽造に関して最初に指摘したのは笘篠なので、要らぬ気兼ねをしているのだろう。笘篠は首を横に振って、気にするなと合図をする。「次、現場周辺の地取りと防犯カメラ設置状況」 南署の別の捜査員が立ち上がる。「犯行現場は公園ほぼ中央にある四阿の横ですが、富沢公園では入口付近とグラウンド側にしか防犯カメラは設置されていません。念のためにビデオ画像を再生してみましたが、撮影範囲からひどく離れていて現場は映っていません。なお、公園の利用時間は六時から十九時まで」 死亡推定時刻を考慮すれば、公園が閉まってから被害者と犯人が園内に侵入したとみるのが妥当だろう。理由は言うまでもない。人目に触れたら困るから、わざわざ無人の場所に足を踏み入れたのだ。「公園が閉まってから翌朝死体が発見されるまでの間に不審者を見かけなかったか近隣に訊き込みをしましたが、今のところ目撃証言は得られていません。今後は公園前の通行人に当たる予定です」「では、次に被害者の自宅について鑑識から報告」