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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

13 これには鑑識課の両角が答える。「被害者宅は会社の単身用住宅で広さは1K。居住しているのは被害者のみなので、残留物の採取は比較的簡単と思われたのですが……」「どうした」 両角が口籠もると、早速石動課長が先を促した。「現在も分析の最中ですが、毛髪や体液はともかく、未だに一個の指紋も採取できておりません」 やはりそうなのか。笘篠たちは事前に瞬間接着剤の存在を知らされていたので覚悟していたのだが、雛壇の東雲以下居並ぶ捜査陣は驚きを隠せない様子だった。「被害男性は日頃から瞬間接着剤を使って自身の指紋を消していた痕跡があるんです。ユニットバスの中に接着剤の容器がありました」「しかし実際に生活する上で、接着剤が?がれる局面もあるんじゃないのか。第一、風呂に浸かっていれば接着剤は自然に?がれるだろう」「いえ。被害男性が使用していたのは、専用の?離剤でなければなかなか?がれない種類のものです。もちろん人間の皮膚は老化するので接着剤も自然に?がれるのですが、被害男性は定期的に塗布を繰り返していたらしく、ユニットバスからも指紋は検出できていません」「指紋が駄目でも、毛髪や体液は残っていたのだろう」「採取はしましたが、まだDNA型分析の途中です」「結果待ちか」 東雲は期待を込めたように言うが、期待薄なのは両角の顔色で分かる。