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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

15「何だと」 笘篠の言葉に捜査員たちが騒ざわめき出す。「無論、自殺した女性は妻とは似ても似つかぬ他人でした。しかし素性を調べるうち、彼女が面接に持参した住民票もやはり偽造されたものであることが判明したのです。ただし彼女の場合、採用先が風俗業で身分証が発行できなかったため、運転免許証も偽造に頼らざるを得ませんでした」 笘篠は〈貴婦人くらぶ〉の栗俣から聴取した内容とその後の捜査結果を?い摘んで話す。最初は当惑気味だった東雲も次第に身を乗り出してきた。「鬼河内か。忘れ難い名前だ。確かにあの鬼畜夫婦の娘なら素性を隠したくなるのも頷ける」「鬼河内珠美と今回殺害された被害男性との関連はまだ認められていません。しかし調べる価値はあると思います」「共通項は偽造した住民票か。同時期に似たような事案が発生したのは偶然ではないかもしれない」 東雲はそう呟くと人差し指でこつこつと机を叩き始めた。笘篠以下、県警捜査一課の者なら全員知っている東雲の癖だ。迷っているのではない。発言相手の真意を推し量ろうとしている時の仕草だった。「君の提案を採用すると、気仙沼署も巻き込むことになるな」「気仙沼署の案件は自殺で処理されていますが、捜査情報の共有で協力が得られると考えます」「住民票偽造の大元を辿れば容疑者にぶち当たるということか」