ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

17「あの震災から七年が経過しました。ご承知の通り、東日本大震災の行方不明者については、遺族の多くが戸籍法の特例を使って失踪宣告の手続きを踏まずに死亡届を提出しています。しかし他方、一縷の望みに縋す がって未だ失踪宣告をしていない遺族も存在しています。もしそうした行方不明者の個人情報が不法に扱われているとしたら、類似の事件がまた発生します」 静まり返った会議室に笘篠の低い声が響く。この場にいる全員が事の重大性を理解した瞬間だった。 重大性だけではない。行方不明になって既に七年が経過しているにも拘わらず、未だ死ぬこともできない被災者とその遺族の悲哀は決して他人事ではなかった。「発言の趣旨は理解した」 東雲は笘篠を正面から見据えて言う。「被害男性の捜査を進める過程で、偽造された住民票の?末についても解明しなければならない。気仙沼署との連携も必要になるだろう。最初に発案した君がその方面の捜査をすることも認めよう。ただし」 いったん言葉を切ってから口元を緩ませる。「わずかでも私情を挟む気配が見えたら担当から外す。そのつもりでいろ」 これが東雲のやり口だった。 煽るだけ煽っておきながら手綱は決して放さない。引き千切ろうとした犬には容赦なく仕置きをする。この老獪さこそが東雲の真骨頂と言えた。 ふと視線を移すと、雛壇の端で石動がにやにやとこちらを見下ろしていた。