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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

2 一 生者と死者「ウチの仕事は海産物の運搬も主業務のうちなので、従業員は運転免許証取得が採用の条件なんです。ところがですね。天野は免許を取得していながら現物は持っていないというんです。事情を訊いたら震災に遭った際、家屋もろとも自分の私物も免許証を含めてずいぶん流されたというものですから」「じゃあ面接の際にはどんな身分証明書を持参したんですか」「住民票だけでしたね。とにかく当時も人手不足だったから、面接さえ通ればすぐにでも採用したい。それで社員証を先に発行させて、あいつを運転免許センターに走らせたんです」 住民票の写しと社員証があれば運転免許証は発行できる。事件の肝はここかもしれないと笘篠は考えた。「鬼河内珠美が免許証を偽造しなければならなかった理由の一つはこれだったんだろう。今回と違い、彼女は社員証を発行してくれるような職業には採用されなかった」 蓮田は納得したように頷く。「今は銀行口座や各種カードも住民票だけでは作ってくれないこともありますからね」「珠美としてはどうしても身分証明書として運転免許証が欲しかったんだろうが、正規のルートでは入手できない。だから偽造に頼る以外になかった」「二人の共通点は偽造された住民票に絞られますね」「ああ。各種証明書類の偽造は今に始まった事件じゃないが、対象が住民票一本となると関連性を疑わざるを得なくなる」 捜査に予断は禁物なので断言めいた言葉を口にするのは憚られる。だが、二つの事件が?がっ