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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

23「大崎と大郷町の場外馬券売り場に防犯カメラが設置されていて、被害男性が誰かと一緒にいる場面でも映っていればめっけものなんですけれどね」「そんなに都合よくいけば苦労しない」 だが可能性を全否定する根拠もない。被害男性の素性が明らかになろうとなるまいと、いずれは東北各県内に設けられた競馬施設の防犯カメラを虱しらみ潰しに当たる羽目になるだろう。「都合よくはいかないが、捜査本部で具申はしておく必要があるな」 今は顔認証システムが発達しているので画像検索に大した手間暇はかからない。むしろ面倒なのは各地の防犯カメラからデータを取り出してくる作業だ。現在稼働している鑑識の手が足りなくなれば、科捜研の人間も駆り出さなければならない。いずれにしても捜査本部が膨張するのは、あまり好ましい傾向ではない。船頭多くして船山に上るの喩えではないが、捜査員を徒いたずらに増やしても効果が見込めるのはローラー作戦くらいのもので、今回のように被害者の身元さえ不明な状況下では有効性に疑問が生じる。第一、東雲が捜査本部の拡大を渋るのは目に見えている。 とにかく被害男性の素性を特定することが優先される。そうでなければ他の捜査の進捗を阻む結果になりかねない。 寮の部屋で押収された私物や残留物の分析がどこまで進んでいるかが気になるところだ。だが二回目の捜査会議の席上においても、鑑識から目ぼしい進捗の報告は為されなかった。「そういえば今日一日、フロアで鑑識の人間を見かけなかったな」「朝イチでまた〈氷室冷蔵〉の寮に向かっているみたいですね」 鑑識課に同期の人間がいるせいか、蓮田は彼らの動向に通じている。情報が確かであるのな