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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

24 一 生者と死者ら、鑑識課は寮の部屋からまだ押収できるものがあると考えていることになる。新しい試料が採取できれば捜査の進展が見込める。 笘篠は再び寮に向かうことにした。 寮の敷地内に停められていたのは鑑識のワンボックスカーだけだった。階段を上ると件の部屋の前には警官が立っている。「ただ今、鑑識の作業中です」 作業中なら捜査員は足を踏み入れることができない。「両角さんを呼んでもらえませんか」 警官に言こと伝づてを依頼して十五分もすると、作業を中断された怒りを隠そうともせず、両角が出てきた。「笘篠さん、いったい何の用だ。作業中なのが分からんような唐とう変へん木ぼくじゃないだろう」「一度臨場した現場に舞い戻ってきた鑑識の意図が知りたい」 あまりに直ちょく截せつな物言いに、両角は機先を制されたように顔を強張らせる。「捜一が無関係とは言わないが、あなたに鑑識の事情を逐一報告する義務はない」「それなら当てずっぽうを許してほしいが、先に押収した試料では何の進展もなかったからじゃありませんか」 両角は黙ってこちらを睨む。肯定しているのも同然だった。「寝具からは毛髪や体液が採取できたでしょう。DNA型も分析できたかもしれない。しかしデ