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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

3ているのは確実だと長年の勘が告げていた。「天野を名乗っていた男は本当に岩手の出身でしたか。言葉になまりとかなかったですかね」「うーん」 室伏は首を捻って思案に暮れる。「話している限り、なまりは出なかったなあ。最近は標準語を話そうとするヤツも少なくないですしね」 作業所を出た笘篠たちは県道五十四号線を西へと移動する。作業所から徒歩五分の場所に同社の寮があり、県警と来宮ら南署の捜査員たちが先に向かっているはずだった。 果たして件の寮は、警察車両と捜査員の行き来する姿で遠目からでも確認できた。プレハブとまではいかないが、長きに亘る風雪に耐え得る建物には見えない。震度5程度で崩壊するのではないかと、笘篠は他人事ながら要らぬ心配をする。 あれほどの大惨事を経験していながら、未だにこうした安普請の集合住宅も存在する。無論、耐震構造のしっかりした建築物が望ましいのは言うまでもないが、そこにはいつもカネの問題が横たわっている。東京オリンピックでヒトもモノも供給の足らない被災地に限らず、資金の多寡で人の安全が値づけされているのだ。「犯行現場に本人のスマホがなかったのは、やはり犯人が持ち去ったんでしょうね」「そう考えるのが妥当だろう。外出するなら、普通は携帯端末を持って出るだろう」「そりゃあそうですよ。携帯するから携帯端末なんだし」「死亡推定時刻は午後十一時から深夜一時までの間。そんな時間に公園で誰かと会う。会う時間