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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

4 一 生者と死者を決めるならスマホを介してだろう。当然本人のスマホには通話記録どころか、ひょっとしたら犯人のデータが保存されていたのかもしれない。いや、犯人の立場ならそう考えて当然だ。殺した相手のスマホは絶対そのままにしておけない」「でも笘篠さん」 蓮田は寮を指差して言う。「犯人が十本とも指を切り落としたのは男の本当の素性を知られたくなかったからですよね。しかし部屋の中には本人の指紋がそこら中に付いていますよ。だったら指を切り落としたところでまるで意味がないじゃないですか」 もっともな疑問だった。だが犯行が衝動的なもので、犯人が日頃から刃物を所持していると仮定すれば頷けない話でもない。死体の素性を隠そうと歯型や指紋の採取を不可能にしたまではよかったが、家の中にまでは頭が回らなかったという解釈だ。いずれにしろ、犯人が迂う闊かつだったかそうでなかったかは、この家宅捜索が明らかにしてくれるだろう。 当該の部屋は二階の手前から三つ目と聞いている。来宮の姿が見当たらないが、鑑識作業が終わらない限り捜査員は臨場できないので、どこかで待機しているのかもしれなかった。 笘篠と蓮田が階段の下までやってくると、ちょうど部屋のドアが開き、中からぞろぞろと鑑識課員たちが下りてきた。違和感を覚えたのは彼らのほとんどが手ぶらだったからだ。通常であれば何人もの鑑識課員が押収物を収めた段ボール箱を抱えているはずなのだが、それが一人しかいない。 彼らの中によく知った顔があった。県警の鑑識課に籍を置く両もろ角ずみだった。特段、酒を酌み交わ