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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

5すほどの仲でもないが、現場で顔を合わせると意見交換くらいはする。ところが今日の両角は笘篠の姿を認めても、不機嫌そうに脇をすり抜ける。これは収穫がなかった際の徴のようなものだった。 入れ違うかたちで笘篠たちが階段を上がってみると、来宮と出くわした。「鑑識作業は終了したみたいですね」「終了したというか何というか」 来宮は悩ましい顔でドアの前に佇む。「とにかく奇妙なんです。殺された男は確かにこの部屋に住んでいたはずなのに、指紋が見当たらないんです」「まさか」 背後で蓮田が頓狂な声を上げる。訝いぶかしく思ったのは笘篠も同じだった。 来宮に誘われて部屋に入る。広さは1Kほどだろうか、単身用とはいえ家具が入るとさすがに狭い。冷蔵庫とローテーブル、薄型テレビとベッド。テーブルの上には成人雑誌と競馬新聞が無造作に置いてある。ベッドのシーツと枕がないのは鑑識が持ち去ったからに違いない。 だが、それにしても押収物があまりにも少なかった。これでは居住時の状態と大差ないではないか。「本当に、これで鑑識は仕事を終わらせたんですか。雑誌に新聞なんて普通は指紋がべっとり付いているでしょう」 蓮田が疑義を唱えるが、来宮も苛立ちを隠せない。