ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

6 一 生者と死者「そんなことを言ってもしようがないでしょう。鑑識は一生懸命でしたよ。しかしこの狭い部屋をライト片手に隈なく捜索しても、たった一個の指紋すら検出できなかったらしいんです」 二人の間を取りなすように、笘篠が割って入る。「指紋以外も採取できなかったのですか」「いいえ。毛髪や埃なんかは採取できたようです。ところが肝心の指紋が」「普通に生活していれば家具や小物に指紋が残らないはずがない」「どうやら普通に生活していた訳じゃないらしいです」 来宮は狭い廊下から浴室に向かう。大人一人やっと入るようなこれまた狭小空間にユニットバスが押し込められている。「指紋が見当たらない理由はそれです」 鏡の下、石鹸置きの隣にガラスの容器があった。〈瞬間接着剤〉 よく見かける容器だったが、浴室にはそぐわない。「ゴミ箱には空の容器もありました」「まさか指先に接着剤を塗っていたんですか」「その瞬間接着剤は一度塗布すると半日は保も つらしいんです。やってみれば分かりますけど、ガラスに触れても全く指紋が付着しません。その上使用感はゼロで、指先の微妙な感覚も維持できる」「詳しいですね」