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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

7「実際に試してみました」 仏頂面で来宮は二人の面前で両手を広げてみせた。具つぶさに見れば十指全部の腹が半透明の被膜に覆われている。「意外に優れものですよ。ちょっとやそっとじゃ?がれないし、目立ちにくい」「風呂場に置いてあるのは、ここで被膜の貼り替えをしていたからですかね」「おそらくは別の場所でも貼り替えていたと思います。手軽なものですよ。容器自体はポケットに収まる大きさだし、?がした接着剤は丸めて捨てればいい。指サックよりも安上がりで、しかも簡単に使い捨てができます」「それで指紋が採取できなかったんですか」「残念ながら。ただ小物やシーツ、枕にはまだ可能性があるとして押収しました」 鑑識が常備している科学捜査用ライトはALS(代替光源)と呼ばれ、可視光線の特定の波長の光と紫外線、赤外線を照射できる。これによって指紋や毛髪を発見するのだが、それで見つからなかったというのなら絶望的だ。「そうまでして指紋を隠したかったのは、やはり男が前科持ちだったからですかね」「蓮田さん、それは当然わたしたちも考えました。しかし警察のデータベースには住所や指紋以外にDNA型も残っています。仮に殺された男が前科者であったと仮定して、指紋だけを隠しても無意味じゃないですか」 笘篠は蓮田と来宮の会話を聞きながら、二人ともまだ経験が浅いことに気づいた。蓮田は警察官を拝命して五年、おそらく来宮も同じくらいだろう。