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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

8 一 生者と死者「警察庁が容疑者のDNA型情報をデータベースに登録し始めたのは二〇〇五年からだ。それも各都道府県警によって取り組みの時期に差がある。宮城県警は後発組だ」 蓮田と来宮は顔を見合わせる。やはり現場に配属される以前については事情を知らなかったらしい。 DNA型情報のデータベース登録に各都道府県警の取り組みがまちまちだったのは、偏ひとえに憲法違反の惧れがあるからだ。 被疑者に対する強制的な捜査は原則として裁判所の発行する令状に基づいて行われる。これが憲法35条1項に定められる所いわゆる謂令状主義だ。 しかし被疑者からの指紋採取と写真撮影に関しては刑事訴訟法218条3項「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若も しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第1項の令状によることを要しない」という条文が令状主義の例外として認められている。言い換えればDNAの採取については例外として認められていない。普段であればトップダウン方式で警察庁の意向に唯い々い諾だく々だくと従うはずの県警に初動の差が生じたのは、これが原因だったと笘篠は考えている。 もっとも警察庁としては各県警の足並みが不揃いなのは問題であり、二〇一二年九月十日には「DNA型データベースの抜本的拡充に向けた取組について」と題した通達を都道府県警察に下ろし、身柄拘束の有無に拘わらず積極的に被疑者からDNA試料採取をするように指示している。従って容疑者のDNA型が指紋と同様にデータ化されているのは二〇一二年の通達からと捉えた方が妥当だ。