ブックタイトル中山七里「境界線」

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編！　東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは？　著者渾身の社会派ミステリー小説。

1三　売る者と買う者1　寮の排水口から強制的に排出させた接着剤の被膜は一センチ四方もないちっぽけなものだったが、捜査本部にとってはこれ以上ないほど大きな贈り物となった。　被膜は早速警察庁の指掌紋自動識別システムに照会され、間もなく一人の前科者の指紋と一致した。　真ま希き竜たつ弥や 、昭和四十九年五月七日生。平成十八年二月八日に栗くり原はら市内のコンビニエンスストアに押し入り、店員を刃物で刺した上で現金五万二千円を強奪。同月二十三日に逮捕・送検され懲役九年の判決を受ける。平成二十七年二月に刑期を終えて宮城刑務所より出所、その後の消息は不明。「その後の消息は不明というのは、ずいぶん素っ気ない回答ですね」　覆面パトカーのプリウスを駆りながら蓮田が話し掛けてくる。「出所後は保護司なり身内のところに転がり込むのが普通でしょう。それでも足取りが?めなか