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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

12 三 売る者と買う者て見える。 ポストを確認すると〈真希菜な穂ほ子こ〉とだけ記載がある。 インターフォンで来意を告げると、小柄で白髪の婦人が玄関から顔を覗かせた。「竜弥なら刑務所に行ったきり音信不通です。折角来ていただいても大して話はできません」 彼女が母親の菜穂子なのだろう。白い解ほつれ毛と目尻に刻まれた深い皺がのっけから門前払いの気配をぷんぷんさせるが、笘篠のひと言が菜穂子の態度を一変させた。「真希竜弥さんは六月二十日、富沢公園において死体で発見されました」「え……そんなニュース、初耳です」「発見時、真希さんの素性は明らかではありませんでした。昨日になってようやく身元が判明したんですよ」「?」 菜穂子は言うなりドアを閉めようとする。笘篠が隙間に足を挟み入れて防いだ。「?じゃありません。わざわざあなたを騙すために県警の捜査員が大崎くんだりまでやって来ると思いますか」「音信が途絶えていたのは本当で、だから話せることなんて何も」「では、せめて息子さんが亡くなった事実を報告させてください。わたしたちも無駄足を踏みたくありません」 菜穂子の逡巡は一瞬だった。ドアの隙間に挟んだ足から、すっと圧力が抜ける。「……上がってください」