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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

14 三 売る者と買う者 菜穂子は遺影を見上げて言う。「コンビニ強盗の時には一週間近くニュースで流れていました。その間はご近所の目が怖くて一歩も外に出られませんでした」「具体的に嫌がらせとか誹謗中傷があったのですか」「特にそういうのはなくて……でも、外に出たらどうせ後ろ指を差されると主人から止められたんです」 笘篠は改めて遺影を眺める。見るからに厳格そうで、今にも遺影の中から怒鳴り声が聞こえるようだ。「結構、厳しいご主人だったんですね」「小中学校の校長を務めていたせいでしょうか……特に竜弥は一人息子だったのも手伝って、ずいぶん干渉していました。最初に他人様のおカネを盗んだ時には、頭から火が出るんじゃないかと思うくらい激怒して、鎮めるのに大変苦労しました」「その辺りからですか、本人と疎遠になったのは」「まだ在職中だったので、逮捕歴のある息子なんか実家に近づけさせるなと徹底していたんです」 親が謹厳過ぎるのも考えものという一例だ。罪を犯した事実はともかく、まだ若い身空で寄る辺を失った人間はそうでない人間よりも更生が進みにくい。カネに困った真希が懲りもせずコンビニ強盗に手を染めたのは、案外家庭環境が一因だったのかもしれなかった。「ご主人が亡くなられたのはいつですか」「つい二年前です」