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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

17 遺体の受け取りから葬儀までの流れを説明されると、ようやく菜穂子は我に返ったようだ。自分がしっかりしなければ息子の葬儀も出せないことに気づいたらしい。 ひと通り説明を聞き終わると、菜穂子はゆらりと立ち上がる。「竜弥のことを色々と質問されたのは、犯人がまだ捕まっていないからですね」「面目ないです。身元が判明したのはつい昨日のことでしたから」「必ず」 その声は腹の底から絞り出すような声だった。「必ず犯人を捕まえてください。犯人に罰を与えてください。そうでなかったら竜弥に申し訳なくって」 顔を覆った両手から嗚お咽えつ交じりの声が洩れる。「実の息子が刑務所から出てきたことも、殺されたことも今の今まで知らなかった。何て、何てひどい母親なんだろう」 嗚咽はしばらく続いた。「こんなに腹が立ったのは久しぶりですよ」 真希宅を辞去する時、いつになく蓮田が憤慨していた。「真希竜弥は天野明彦という新しい名前を手に入れた。その代わりに真希竜弥に関係した全ての人間を忘れなきゃいけなかった。つまり、そういうことなんですよね」「鬼河内珠美も同じだ。犯罪者夫婦の娘であるのを隠すために以前の名前も生活も捨てなきゃな