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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

19同一だ。 真希が宮城刑務所で服役したのは九年間。刑務所内で受刑者同士の会話はほとんど禁じられているが、だからといって付き合いが皆無になるはずもない。規則の影に隠れてひっそりと、あるいは公然と親交を深めている。真希に行方不明者の個人情報を売ったのは刑務所仲間ではないかという疑念は、至極当然といってよかった。 受刑者同士の人間関係を一番察知する立場にいるのは、やはり当の受刑者か刑務官だろう。 笘篠と蓮田は刑務官への事情聴取を任され、宮城刑務所へと赴いていた。 付近の駐車場にプリウスを停め、二人は正門前に立つ。時代を感じさせる赤レンガの高い門が立ちはだかる。ふと見れば蓮田は心なしか緊張しているようだ。「初めてなんですよ、刑務所に来るの」 含羞と物珍しさの入り混じった表情だった。「県警本部ともさほど離れていないし、わたしたちの挙げた犯人が収容されているのに、不思議と訪ねる機会がないんですね」「刑務所というのは刑事施設であると同時に更生施設でもあるからな。警察官と縁遠くなっても不思議はないさ」 宮城刑務所内には木工の他、印刷・洋裁・革工の作業工場が設置されている。聞けば作業に熟達した受刑者も少なくなく、さながら職業訓練所の様相を呈している。 一方で、宮城刑務所は仙台矯正管区内で唯一死刑執行施設を持つ。刑事施設と更生施設と二つの性質を兼ね備えている印象は、その事実に起因している。