ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

2 三 売る者と買う者ったというのは何故ですか」「真希の身内はあってないようなものだ」 データベースで真希の前科を確認していたので、笘篠にもうっすらと事情は透けて見える。「真希の郷里は大崎市にあるが、まだ実家暮らしだった二十一歳の時、窃盗で逮捕されている。以来、実家とは没交渉だったらしい。二度目のコンビニ強盗の際、店員の受けた傷が比較的軽傷だったにも拘わらず情状酌量が認められなかったのは再犯だったからだ」「仏の顔も一度きり、ですか。親兄弟が手を差し伸べていたらコンビニ強盗をせずに済んだかもしれませんね」 笘篠は敢えて返事をしない。資質だけでもなく家庭環境だけでもない。残念なことには出所者への支援体制でもない。何が人を犯罪へ走らせるのか、数多の犯罪者を見てきた笘篠ですら参考になるような意見を持てないでいるのだ。「身内が見放していても保護司が面倒を見てくれていたら、出所者の行方や近況くらいは分かるものでしょうに」「それも含めて今から確かめに行くんだ」 二人が向かっているのは富とみ谷や 市の保護司宅だった。警察庁のデータベースに記録がなくても保護司が出所後の真希を知っているだろう。真希竜弥が誰と出会い、どんな経路で天野明彦の個人情報と住民票を取得したのか。現状、真希の保護司以外に手掛かりらしいものは見当たらない。「それで天野……真希竜弥の保護司というのは何者なんですか」「久く谷たにという男だ。以前は町議を務めていたとプロフィールにあった」