ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

20 三 売る者と買う者 二人は正門を潜り、看守棟へと向かう。久谷からの伝聞通り刑務所の外壁は堅牢さを誇り、古こ色しょく蒼そう然ぜんとしていながら重厚感に満ちている。 事前に訪問目的を申し入れておいたので、目当ての刑務官にはすぐ面会できた。 東ひがし良ら 主任看守。刑務官歴十二年のベテランで、服の上からでも筋肉質であるのが分かる。ただし表情は変化に乏しく、笘篠が正面から見据えても愛想笑いの一つもない。「お忙しいところをお邪魔して恐縮です」「いえ。職務ですから」 東良は眉どころか表情筋すら動かさない。受刑者を指導するための仕様としても、まるで彫像と話しているような気がする。「本日伺ったのは、以前ここに収容されていた真希竜弥に関して話を訊きたかったからです」「真希竜弥」 東良は抑揚のない口調で復唱した。「すみません。もしお分かりでしたら囚人番号で言ってくれませんか。我々は囚人を名前ではなく番号で呼ぶことがもっぱらですので」「五二四七号と聞いています。コンビニに押し入った男です」「五二四七……思い出しました。強盗致傷で九年の懲役を食らった男でしたね」「ここへの入所は平成十八年です」「まだわたしがヒラの看守だった頃です。ちゃんと憶えています」「真希……五二四七号はどんな受刑者でしたか」