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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

21「どんな」 問われた東良は能面のような顔のまま沈黙した。回答を拒絶しているのかと思ったが、どうやら記憶を辿っているようだ。「特にこれといった印象はありません。刑務官の指示に逆らう言動もなく、唯ただ々ただ従順な態度だったと記憶しています」 冗談とも本気ともつかなかったので、笘篠は笑うのも躊た め躇ら われた。刑務所内で刑務官に盾突く人間などそうそういるものではない。「刑務官に対する態度ではなく、受刑者同士の関係です。五二四七号と特に親しかった受刑者はいましたか」「原則、受刑者同士が言葉を交わす時間は限られています。従って、特定の受刑者と親しくなるというのは可能性が低いです」「東良さん、我々は何も刑務所の原理原則や建前を訊きに来たんじゃない」 このままでは埒らちが明かないと判断し、笘篠は天野明彦名義の運転免許証の写真を提示した。「囚人番号五二四七号真希竜弥は、出所後に天野明彦という行方不明者の身分で就職し、生活していました。ところが先日、富沢公園で死体となって発見されました。しかも身元が判明しないよう、十指の先端と口蓋部を損壊されていました」 東良の顔にわずかな変化が生じた。疑問が氷解したというように頷いてみせたのだ。「富沢公園で男が殺害された事件は聞き知っています。何となく写真に見覚えはあったのですが、あれが五二四七号でしたか」