ブックタイトル中山七里「境界線」
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『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。
22 三 売る者と買う者 平然とした口調に違和感を覚える。見覚えのある人間がどんな目に遭っても、所詮この男にとっては番号を付した囚人に過ぎないのだろうか。 東良の人間性を論あげつらっても仕方がないが、隣に座る蓮田はそう思っていないらしく不満げな様子を隠そうともしない。ここで事情聴取の相手と争っても何の得もない。笘篠は蓮田に、抑えていろと目配せする。「真希竜弥は住民票を取得して行方不明者の身分を騙っていたと考えられます。しかし他人の住民票を入手するなんて普通は難しい。誰か真希に口添えをするなり個人情報を売った人間がいるはずなんです」「それが受刑者仲間ではないかという疑問をお持ちなのですか」「世知辛い話ですが、いったん塀の中に入ってしまうと、外よりも知り合いが増えてしまう。規則の上では受刑者同士の限られた時間以外の会話は禁じられているでしょうが、あなたたち刑務官がずっと全員を監視していられるとも思えない」「それはわたしたちの執務能力への懐疑ですか」「たとえ受刑者同士が親しくなったとしても、誰もあなたたちを責められないと言っているんです」 話してみると、東良は組織防衛の意識が強い。舌を滑らかにするにはこちらから免罪符を与えるしかない。「東良さんほどのベテランなら受刑者同士のひそひそ話も刑務所内に飛び交う噂も耳に入るでしょう。我々が集めているのはその類の情報です」