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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

23 東良は瞬きもせずに笘篠を見つめる。相変わらず感情が読み取れず、笘篠は次第に焦りを覚えてきた。「県警さんの捜査目的は五二四七号の殺害犯を逮捕することですか。それとも行方不明者の個人情報を売った者を検挙することですか」「個人的に、その二つは同義だと考えています。そして彼または彼女を逮捕することは模倣犯の予防に?がります」 しばらく笘篠と東良の間で睨み合いが続く。 正直言って模倣犯の予防効果云々こそ警察の建前ではないかという気がする。元々の身分では偏見に邪魔されてまともな職にありつくこともできなかった。他人の名前を騙ったのは違法だが、そうでもしなければ生きていけなかったのも事実だ。本来、責められるべきは鬼河内珠美と真希竜弥に身分詐称を余儀なくさせた世間ではないのかとも思う。 ただ笘篠の心情として、奈津美の名前を盗んだことはどうしても許せなかった。鬼河内珠美たちの事情を知った今もなお、私憤の?ほのおは胸の裡に燻くすぶっている。「模倣犯の予防ということであれば、刑事施設に身を置く者として協力しない訳にはいきませんね」 事務的に過ぎ、とても協力する口調ではなかった。「刑務所の一部で受刑者同士のよからぬコミュニティが存在する可能性は否定しません。笘篠さんが疑っているように、個人情報売買の斡あっ旋せんをした輩やからがいるかもしれません。しかし残念ながら、わたしは直接そういった事実を見聞きしておりません」