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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

24 三 売る者と買う者 一瞬だけ揺らいだと見えた感情が、また凝結したようだった。唇から洩れる言葉が、味気ない電子音声のように聞こえる。 これ以上長居しても時間の無駄だ。そう判断すると割り切りも早かった。「そうですか。貴重な時間をいただき申し訳ありませんでした」 笘篠は軽く一礼して腰を上げる。蓮田も仕方なく後に続く。「こちらこそお役に立てず」 ここまでくれば天あっぱれ晴だが、謝罪の言葉すら事務的に聞こえた。木で鼻を括られた立場としてはひと言添えたい気分だ。「今日のところはこれでおいとましますが、引き続きご協力を願います。模倣犯が増え、本来の身分を隠した人間が跳ちょう梁りょう跋ばっ扈こ すれば、真希竜弥のような悲劇はもっと増えるでしょうから」「断言されるんですね。その根拠は何なのですか」「羊の皮を被った狼でも、狼の皮を被った羊でもいい。およそ中身と合わない被り物をしたところで生き辛くなるだけです。生き辛さの果てにあるのは大抵が悲劇でしょう」「同じ刑事施設に勤める人間同士なのに、おっそろしく非協力的でしたね」 宮城刑務所を後にしても蓮田の不機嫌は収まらなかった。「刑務官というのは、みんなあんな風なんですかね」「同じ刑事施設といっても向こうは法務省管轄、こっちは国家公安委員会管轄だ。目指しているものも求められているものも違う」