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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

26 三 売る者と買う者「笘篠さん、ここは」 ようやくお目当ての人物に見当がついたらしく、蓮田は声を潜めた。 インターフォンを無視してドアを叩く。警察官を名乗れば、まず間違いなく居留守を使われるからだ。 五回目でやっと反応があった。「どこの原始人だ。インターフォンが見えねえのかあっ」 他人を脅すしかコミュニケーションの仕方を知らなそうな男が顔を覗かせた。笘篠は男の面前に警察手帳を突き出す。「五ご代だい良よし則のりはいるか」 不意打ちを食らった男は口を噤つぐむ。「捜査一課の笘篠と蓮田だ。名前を伝えれば思い出す」 男が首を引っ込めてしばらくすると、姿より先に聞き覚えのある声が部屋の中から発せられた。「久しぶりですねえ、ご両人」 先の凶暴な人相の男とは打って変わり、現れたのはにやにやと軽薄な笑いを浮かべる細面だ。 この男が五代良則だった。「本日は何のご用で」「〈エンパイア・リサーチ〉の業務内容について訊きたいことがある」「捜査令状は……お持ちじゃないようですね。じゃあ額面通りの事情聴取ですか」「事務所に刑事が居座ったら体裁悪いか」