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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

27「滅相もない。ウチは真っ当な企業ですから、警察には全面的に協力しますよ。どうぞお入りになってください。大したもてなしはできませんけど」 笘篠と蓮田は言われるまま事務所の中に足を踏み入れた。 五代良則は詐欺罪の前科を持つ元ヤクザだ。もっとも今の仕事も表向きは民間調査会社だが、裏に回れば闇ルートの名簿屋なので後ろ暗い商売に変わりはない。 五代とは過去の事件で知り合った。五代のムショ仲間が容疑者として浮上し、その消息を追う過程で五代に辿り着いたのだ。理知的な目が印象的な男で、頭の回転も速い。わざわざヤクザな仕事を選ばずとも別の道があると思うのだが、本人は清流には棲す みたくないらしい。 五代は応接セットに二人を誘うと、いきなりブランデーの瓶と三人分のグラスを取ってこさせた。「いかがですか」「勤務中だ」「残念。じゃあわたしだけいただくとしましょう」 五代はちびりと琥珀色の液体を舐める。こちらが謝絶するのを承知の上で勧めたに違いない。人を食った態度は相変わらずだ。「で、ご用件は何ですか」「先日、富沢公園で男の死体が発見された事件を知っているか」「ああ、ニュースで報じていましたね。何でも全部の指を切り落とされてたそうじゃないですか」「被害者の顔写真が公開されている」