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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

28 三 売る者と買う者「見ましたよ。最近はSNSに上げた自撮り写真が主流なのに、昔懐かしい証明写真でしたねえ」「被害者の顔に見覚えはないか」「ありませんね。まさかウチの名刺でも持っていましたか」「公表された名前は天野明彦だが、被害者にはもう一つの名前がある」 不意に五代の目が警戒の色を帯びた。「十本の指を切り落としたのは、本当の素性を隠すためですか」「質問しているのはこっちだ」「公開されたのが証明写真ということは、身分証明書の偽造絡みってことですよね。それが、どこをどうやったらわたしに関連するんですか」「殺された男には前科がある。懲役を食らってお前と同じく宮城刑務所で服役していた」 五代の顔に薄笑いが広がる。これだけの会話で全てを察したようだった。「なるほど。わたしが殺された男と顔馴染みじゃないのか。そいつに他人の個人情報を売ったのもわたしじゃないのかと疑っているんですね」 最小限の情報を与えただけで図星を指されたのなら、残りを隠していても無意味だった。「実はもう一つ疑っている。天野明彦というのは震災被害の行方不明者だった」「ははあ」 五代は合点がいったというように頷いた。一を聞いて十を知るとはこのことだ。つくづくヤクザ者にしておくのがもったいないと思ってしまう。「ウチが名簿屋をしているから、行方不明者の個人情報を取得するのも住民票を偽造するのも朝