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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

3 保護司は保護観察所の所長が推薦する国家公務員だが、無給なので公的なボランティアという性格を持つ。特段の資格を必要としないが公務員経験者や宗教家といった篤志家が顔を揃えており、久谷のような地方議会議員も多い。 だが篤志家というひと括りで判断するのは早計だと笘篠は考える。前職が議員というのも引っ掛かる。議員が全員篤志家とは限らないし、保護司を一種の名誉職と捉える向きもある。とにかく会ってみなければ何とも言えないが、出所後の真希について多少なりとも情報を提供してくれるのなら、相手が篤志家でも偽善者でも構わない。出所した平成二十七年二月から〈氷室冷蔵〉に就職する翌二十八年六月までの一年余りの間、真希がどこで何をし、誰と接触していたのか。その片鱗でも?まなければ、天野明彦の個人情報の入手方法は解明されない。 しばらく走っているとようやく目的地に辿り着いた。 富谷市ひより台。この周辺は国道四号線沿いの丘陵地に新興住宅地が並び、仙台のベッドタウンとして人口を増やしてきた。最初の団地ができてから半世紀が経とうとしている今も、人口は微増を続けている。 久谷の住まいは住宅地の一番端に位置していた。この辺りでも最古参の住人なのだろうか、増築部分がそうと分かる、相当築年数を経た木造二階建てだった。 事前に仕入れた話によると、久谷は現在七十八歳。町議を務めたのは過去の話で、最近は二回連続で落選しているとのことだった。玄関に出てきた久谷は好々爺然とした風貌だが、目だけは笑っていなかった。