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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

30 三 売る者と買う者 ・住民基本台帳カード6万円 ・病院診断書10万円 ・給料明細10万円 ・源泉徴収票5万円 ・公共料金振込票6万円 笘篠は思わず目を?いた。代書屋とは司法書士・行政書士の別称だが、裏の世界では文書偽造業者を指す。まさか文書偽造がこうも堂々と宣伝されているとは思ってもみなかった。「今はそんな代書屋が乱立していましてね。謳い文句が妙な日本語になっているんで察しがつくでしょう。今は海の向こうから業者がウンカみたいに集っているんです。供給側が増えたら価格競争になるのは理の当然で。そこに出ている値段だって去年に比べたら半額近くに暴落している」「後発組に旨みがない理由か。しかし本名で生きていけない人間も増えたんじゃなかったのか」「価格が暴落すると商品のクオリティが下がるのも商業原理でしてね。たとえば公的文書の透かしってのは結構高度な技術と設備を要求されるんで、十万円じゃ割に合わない。いきおいローテクで偽造するから粗が出る。役所の慣れた職員が見たらバレバレの偽物だから、およそ役には立ちません。役に立たないものを誰が買うもんですか」 文書偽造は大した儲けにならない――五代の理屈はもっともだが、ただ行方不明者の個人情報を売るだけなら商売として成立するのではないか。「その目は、まだわたしを疑っている目ですね」